リードファクトリーの遠藤です。
中小製造業にとって、デジタル化は単なる流行ではなく、競争力を高めるための必須の取り組みです。しかし、デジタル化には様々な課題や難しさがあり、どのように進めれば良いのか迷っている方も多いでしょう。
日本政策金融公庫総合研究所からは2022年12月に中小製造業のデジタル化についてまとめたレポートも発表されており、「中小製造業のデジタル化の実態はどうなっているのか」「デジタル化によって何を得られるのか」そして、「デジタル化を推進するにはどうすればよいのか」について事例をもとに解説されています。
本記事では、上記を参考にしながらも中小製造業のデジタル化の意義とメリット、そしてQCD(品質・コスト・納期)向上に繋げる具体的な活用方法をご紹介します。
中小製造業の現状と課題については以下で詳しく解説しているので良ければご覧ください!
中小製造業の現状と課題。高齢化問題とイノベーション促進とIT・デジタル化
よりマクロな視点での製造業のデジタル化についてはこちらの記事で解説しているので良ければご覧下さい!
製造業におけるDXの重要性とは?実践事例と現状の課題を徹底解説
デジタル化とは何か?中小製造業における定義と目的
デジタル化という言葉はよく耳にしますが、具体的にどういうことを指すのでしょうか?特に中小製造業においては、デジタル化の必要性やメリットが分かりにくいかもしれません。しかし、デジタル化は中小製造業の競争力を高めるために欠かせない取り組みです。この記事では、デジタル化の定義と目的を中小製造業の視点から解説します。
デジタル化とはデータ化+活用のこと
情報通信技術(ICT)を自社の経営に取り入れることを「デジタル化」と定義されています。これは製品やサービス、プロセス、顧客などのビジネスに関わるあらゆる要素をデータ化し、そのデータを分析や可視化などの方法で活用することです。
デジタル化によって、ビジネスの状況や問題点が明確になり、より効果的な意思決定や改善策が可能になります。また、データを共有や連携することで、社内外のコミュニケーションや協働もスムーズになります。
例えば、身近な部分で言うと、米国のAmazonはこの潮流をうまくとらえてビジネス拡大した、デジタルトランスフォーメーションの象徴的存在とされています。
アマゾンはインターネット上で本が買えるようにし、そしてこのプラットフォームを使って、家電や生鮮食品などありとあらゆる商品を消費者に販売するようになりました。
また、ただ売るで終わるのではなくAmazonの利用者一人ひとりの属性や購買履歴などのデータをAIが分析してお薦めの商品を個別に表示するサービスもある
デジタル化の目的はビジネスプロセスの効率化と価値創造
デジタル化の目的は、大きく2つに分けると①ビジネスプロセスの効率化と②価値創造です。効率化とは、無駄やムダを排除し、コストや時間を削減することです。価値創造とは、顧客満足度やロイヤリティを高めることです。
従来日本企業はデジタル化への投資を効率化投資(守りのIT投資)として見ています。他方、米国企業ではデジタル化への投資を、自社の競争力強化や差別化を生み出すためのデジタルトランスフォーメーションのための投資(攻めのIT投資)ととらえる傾向があるという。「何故日本のデジタルイノベーションは遅れているのか」
しかし今後、日本人口が減り続ける中で産業の根幹である中小製造業が生き残り、さらに価値を発揮していくためには上記のような考えは改めていく必要があります。以下に理由を3つ述べます。
①労働人口の減少
残念ながら日本の人口は2008年をピークに減少傾向にあります。
国立社会保障・人口問題研究所の推計(出生中位(死亡中位)を仮定)によると、2053年には1億人を下回る見通しとなっています。ちなみに2023年の見通しは1億2330万人ですので、今後30年で20%もの人口減少です。
また生産年齢人口は1995年をピークに減少し続けています。2022年の生産年齢人口はおよそ7,000万人と推計されていますが、2056年には5,000万人を割り込む想定です。つまり働き盛りの現役世代が今後30年で約30%減るということです。
単純計算になりますが、働く人の数が3割減っても現状の生産量を維持するには、一人ひとりの生産量を4割以上に増やす必要があるのです。
上記の通り、人で代用できないならデジタルで代用をするしかないところまで環境が変わってきているということです。
②事業環境の変化への対応
2つ目は事業環境の変化への対応です。地震や豪雨など、全国で突発的に発生する災害は中小製造業の事業環境を一変させます。予期せぬ事態が起きても、中小製造業は供給責任を果たすことが求められます。その中でいかに工場を安定的に稼働させ続けるのかは永遠の課題です。
新型コロナウイルスの感染対策として挙げられる、密閉・密集・密接という3密の回避は製造業にとっては非常に難しい部分である。とはいえ目の前の現場で起きている事象を可能な範囲で分解し、デジタルによって少しでも回避できる策を模索する必要があります。
製造業であっても間接部門である管理部門などではテレワークの推進をするというのも少なからず対策の1つではある。このように事業環境にうまく適応していくことも中小製造業には求められているのです。
③生産性の向上
3つ目の理由は、労働生産性の向上である。日本生産性本部(2021)によると、日本の2020年の1人当たり労働生産性(就業者1人当たりの付加価値額)は7万8,655ドルと、OECD加盟38カ国中28番目です。
2019年のデータでは、製造業についてみると、1人当たり労働生産性は9万5,852ドルであり、日本全体の労働生産性よりも高いとはいえ、米国(14万8,321ドル)や、ドイツ(9万9,007ドル)など海外の先進国に比べると水準は決して高くないです
労働生産性とは以下の図式で算出されます。
上記の計算式をもとにすると、労働生産性を向上するには、分子である付加価値額を維持したまま分母である労働投入量を減らすか、分母である労働投入量を維持したまま分子である付加価値額を増やすかということです。
前者の「デジタル化による労働投入量の削減」を具体的 にイメージしてみると、生産の自動化や生産管理や間接業務の効率化などが挙げられます。ただ、これには限界があります。日本の製造業の現場は常に競争原理が働いており、PQCDSMEが代表するように様々な角度からカイゼンを重ねてきており、更なる労働投入量の削減は厳しい部分があると考えられます。
では後者の攻めのIT投資に当たる「付加価値額の増大」はどうでしょう。労働投入量の削減にはどうしても限界がある一方で、付加価値額の増大に限界はありません。デジタル化を通じて他社にはないモノやサービスを提供できる余裕を生み出せれば、付加価値の増大を通じて労働生産性を高めることができます。
日本政策金融公庫総合研究所編(2021)は、デジタル技術の活用で生産性を高め、ほかの企業にまねされにくい独自性の確立にもつなげている小企業がいることを、ケーススタディを通して明らかにしています。
㈱有本電器製作所(新潟県加茂市)は、鉄道車両や船舶、発電機などに用いる大型の金属部品の加工を得意としており、工場では昔ながらの旋盤やフライス盤などが活躍している。
定年制がないことも特徴で、60歳以上の従業員が半数以上を占めている。2015年、仕事の進しん捗ちょくを可視化するためにパッケージ型の生産管理システムを導入したが、パソコン操作が得意ではない、手が油まみれでハンディターミナルを使いにくいといった不満が相次ぎ、運用に失敗してしまう。このときの反省を生かして、AIによる音声識別機能を備えた独自の生産管理システムをITベンダーとともに開発した。高齢の従業員が多いという事情に対応しながらデジタル化を進めている企業である。
上記の3つの解決することができるのはもはやデジタル化しかない。
中小製造業のデジタル化がもたらすQCDメリット3つ
品質向上(Q):不良率の低減や品質管理の強化
中小製造業にとって、品質は競争力の源泉です。しかし、品質を高めるためには、多くの工程や要素を管理しなければなりません。人的ミスや機械故障、材料のばらつきなど、品質に影響する要因は数え切れません。そこで、デジタル化が役立ちます。
製造現場のデータを収集・分析・活用することで、実現できることは以下が例として挙げられます。
- 不良率の低減:製品や工程の状態をリアルタイムに把握することができます。これにより、不良品の発生原因を迅速に特定し、対策を講じることができます。また、予防保全や品質予測など、不良品の発生を事前に防ぐことも可能です。
- 品質管理の強化:製品や工程の履歴(誰がいつ何をしたのか)やトレーサビリティを確保することができます。これにより、品質管理の精度や効率を高めることができます。また、顧客や規制当局からの品質要求にも柔軟に対応することができます。
コスト削減(C):ムダやロスの排除や生産性の向上
コストは利益率や競争力に直結します。しかし、コストを削減するためには、多くの工程や要素を最適化しなければなりません。人件費や材料費、設備費など、コストなど考えなければいけないことはたくさんあります。
デジタルを活用したコスト削減の具体例としては、以下のようなものがあります。
- ムダやロスの排除:製造現場の無駄な動きや待ち時間、過剰生産や在庫などを可視化することができます。これにより、ムダやロスを発見し、改善することができます。また、スマートファクトリーやIoTなど、自動化や連携によりムダやロスを削減することも可能です。
- 生産性の向上:製造現場の作業効率や稼働率を高めることができます。これにより、生産量や品質を維持しながら、コストを削減することができます。また、ビッグデータやAIなど、高度な分析や判断により生産性を向上することも可能です。
納期短縮(D):在庫やリードタイムの最適化や顧客ニーズの迅速な対応
納期は顧客満足度や競争力に直結します。しかし、納期を短縮するためには、多くの工程や要素を調整しなければなりません。原材料や部品の調達、製品の製造や検査、出荷や配送など、納期に影響する要因は数え切れません。
デジタルを活用した納期短縮の具体例としては、以下のようなものがあります。
- 在庫やリードタイムの最適化:製品や部品の在庫量や在庫期間を把握することができます。これにより、在庫コストを削減し、在庫切れや過剰在庫を防ぐことができます。また、製品や部品の需要予測や供給計画など、在庫やリードタイムを最適化することも可能です。
- 顧客ニーズの迅速な対応:顧客の注文や要望をリアルタイムに把握することができます。これにより、顧客ニーズに応じた製品やサービスを提供することができます。また、カスタマイズやオンデマンドなど、柔軟な生産方式により顧客ニーズに迅速に対応することも可能です。
以上のようにデジタル化によって中小製造業が受けられる恩恵についてQCDをテーマにして解説しました。では、実際にデジタル化を実現するために押さえて置けなければいけないポイントはなんなのでしょうか?
中小製造業がデジタル化を成功させるためのポイント
中小製造業はどのようにすれば、デジタル化を成功させることができるのでしょうか?ここでは、中小製造業がデジタル化を成功させるためのポイントを3つ紹介します。
- 現状分析と目標設定:課題やニーズを明確にする
- デジタルツールの選定と導入:自社に合った最適なソリューションを探す
- 人材育成と組織変革:デジタルスキルやマインドセットを高め、変化に対応できる組織文化を作る
まず、自社の現状分析と目標設定を行う必要があります。現状分析では、自社の強みや弱み、市場や顧客の動向、競合他社の状況などを把握し、自社にとってのデジタル化の意義や必要性を明確にします。
例えば、オーエーセンター株式会社のフードサービス事業の1つであるチョコレート菓子「ネジチョコ」の製造販売の事例ですが、人気商品の「ネジチョコ」の生産から出荷までの工程を当初はすべて手作業で行っていた。増え続ける注文に対応するため従業員を増やして何とか1日当たり6,000個の生産を実現したが、現場の従業員は限界を迎えていました。それぞれの工程で問題点が噴出してしまったのでした。
そこで現状分析をしたところ以下の3つのことが分かりました。(1. 現状分析)
- 充塡について人の手でチョコレートを流し込むため、型からチョコレートがこぼれないように均一の力加減で作業するのは集中力が必要です。川上の工程である充塡でミスが発生すると後工程に影響してしまうことも作業員のプレッシャーになっていました。
- 型抜きについてネジチョコの売りは「精巧さ」(リアルさ)でした。ネジ山をつぶさないように抜き取ることが求められ、こちらも集中力を必要とします。しかも手にぐっと力を入れるため、腱けん鞘しょう炎になる従業員が続出したのである。
- 、包装と検品についてボルトとナットの色と大きさが同じなので両者を一瞬で見分けることが難しく、選別や検品に時間がかかっていました。
そこで、社長の吉武さんは手作業の要素を極力減らすことが最善策と考え、生産の完全自動化を目標に掲げ、デジタル化を進めることにしました。(目標設定)
次に、取り組んだのは「2. デジタルツールの選定と導入」でした。
吉武さんは産業用ロボット導入支援補助金を活用し、2017年に型抜きロボットを導入し、チョコレートの自動充塡機やパーツフィーダーを次々と導入して、すべての作業を機械化した。
パーツフィーダーとは、トレーの振動とアタッチメントの誘導によって製品を自動で仕分けする機械です。金属製のボルトやナットの製造現場で使われている機械をネジチョコ用にカスタマイズ。これらの機械には小型のコンピューターが内蔵されており、コマンドを入力することでスピードを調整でき、生産量の実績も記録できるという優れもの。
包装と検品の工程では重さを測るセンサーを内蔵した自動包装機を導入して誤包装を防ぐようにし、負担を大幅に軽減。
上記のように機械化によって生産を効率化していったわけですが、オーエーセンター株式会社は別事業で通信機器や携帯電話を取り扱っていたこともあり、デジタル技術の有効性と可能性を知っており、より具体的に活用のイメージが湧いていたことも大きいと考えられます。
最後に、デジタルツールはタダ導入するだけではなくそれらを適切に扱えるように人材育成と組織変革を行う必要があります。人材育成では、デジタルツールを使いこなすためのデジタルスキルや、マニュアルの整備、誤操作や人為的ミスの削減のオペレーションの構築が不可欠です。
逆にいえば、オペレーションが構築されれば半永久的に安定稼働することができるので最初の投入コストを考えても非常に有効な投資と考えられます。
組織変革では、デジタル化に伴う業務やプロセスの変更や改善、役割や責任の再分配(誰がどこまで何をするのかの言語化)、それに伴う既存コミュニケーションの変更をし、変化に対応できる組織文化を作ります。
このように人材育成と組織変革を行うことで、中小製造業はデジタル化に適応し、持続的な成長を実現できるようになります。
まとめ
中小製造業がデジタル化を成功させるためには、現状分析と目標設定、デジタルツールの選定と導入、人材育成と組織変革の3つのポイントを押さえる必要があります。これらのポイントを実践することで、中小製造業はデジタル化によって競争力を高め、ビジネスの発展につなげることができます。デジタル化は中小製造業にとって大きなチャンスです。ぜひこの記事を参考にして、デジタル化に挑戦してみてください。
リードファクトリーでは製造業のWebマーケティングについての無料相談会も実施しておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
一橋大学商学部卒。ENEOS株式会社に新卒で入社。日本最大級の屋内型テーマパークの立ち上げ、ベンチャー企業でマーケティング責任者としてBtoBマーケティング、インサイドセールス等の立ち上げ。その後、プライム市場上場のグローバル医療メーカーにて、海外BtoBマーケティングに従事。その後、BtoBマーケティング・営業DX支援の株式会社LEAD FACTORY.を創業。