スタートアップのBtoBマーケティング戦略|フェーズ別の施策と指標

BtoBスタートアップのマーケティング戦略|フェーズ別に見るべき指標と施策

BtoBスタートアップのマーケティングは、フェーズによって見るべき指標も打つべき施策もまったく変わります。立ち上げ期の段階で認知広告に予算を使ってしまったり、契約が増えてきたのに検証段階のノリのまま広告を回し続けたり、というミスマッチは意外とよく起こります。この記事では、立ち上げ期・拡大期・成長期という3つのフェーズに分けて、ヒト・モノ・カネの観点から見るべき指標と施策をご紹介します。

フェーズ別に見るべき指標が変わる理由

まず全体像を整理します。

フェーズ事業規模の目安主な論点主に見る指標
立ち上げ期(0→1)ARR未達・受注前後市場があるか広告への反応率、商談での反応
拡大期(1→10)契約社数10社が入口の目安リードの量と質MQL数、商談転換率
成長期(10→100)年間広告予算3億円規模認知とエンタープライズ開拓指名検索数、受注単価

同じ「広告運用」というテーマでも、ARRがまだ立っていない会社と、ARRが数億円規模まで積み上がった会社とでは、見るべき指標も、投じるべき予算感も、チームに必要なスキルも別物です。ここからは各フェーズを詳しく見ていきます。

立ち上げ期(0→1):市場のニーズを検証する

このフェーズで一番大事な論点は、施策の巧拙よりも「本当にニーズがあるのか」「そこに市場が存在するのか」という点です。プロダクトができて営業を始めたばかりの段階で広告のCPAやCVRを追い込んでも、そもそも刺さる相手がいなければ数字は改善しません。

まずやりたいのは仮説検証です。想定している課題を持つ企業が、実際に検索したり情報収集したりしているかを確かめる段階なので、リスティング広告やMeta広告との相性が良いプロダクトであれば、まずは小さく出稿してみるのがおすすめです。

この2つの広告は役割が異なります。リスティング広告は、すでに顕在化しているニーズに対して出す広告なので、検索されているキーワードがある時点で「そのニーズは実在する」という前提に近いところからスタートできます。一方でMeta広告は、まだ市場にカテゴリー自体が存在せず、検索ボリュームもほとんどないプロダクトに向いています。検索されるのを待つのではなく、フィード上で課題そのものを認識してもらうところから始めて、そこからリードを取りにいく形になるので、同じ仮説検証でも狙っている層のフェーズが違うと捉えるとわかりやすいと思います。

一方で、AI関連のツールや製造業向けのシステムなど、特定の業界に特化したバーティカルなプロダクトの場合は、展示会も有効な選択肢になります。特定のキーワードで検索されるとは限らない製品でも、展示会であれば「課題を持っている人がその場に集まっている」という状態を作れるため、Web広告だけでは拾いきれない層と接点を持てるのが強みです。

ヒト:経営者・事業責任者が動かす

実際にこのフェーズを動かしているのは、経営者や事業責任者クラスであることがほとんどです。専任のマーケティング担当を置くというより、事業の意思決定者自身が仮説を立てて広告や展示会を試し、反応を見ながら軌道修正していく体制になります。数字を追うというより、商談の中で聞かれる質問や反応の温度感を丁寧に拾い、プロダクトやメッセージングを調整していく時期だと捉えるとよいと思います。

モノ:プロダクトはMVPのまま検証を続ける

このフェーズの「モノ」は、プロダクトそのものがまだ固まりきっていない、という点が特徴です。MVPに近い状態で市場に当てながら、商談で聞かれる質問や反応をもとに機能やメッセージングを直していくことになるので、広告やLPなどの資産も作り込みすぎず、検証しながら変えていける状態にしておきたいところです。

カネ:広告予算を絞り小さく検証する

このフェーズはカネ(広告予算)を大きく張るタイミングではありません。少額でリスティングやMetaを試しながら、反応を見て予算配分を調整していく進め方になります。

拡大期(1→10):MQL数と商談転換率を追う

「市場はありそうだ」という手応えが得られて、実際に契約が生まれ始めたら次のフェーズです。目安としては、まず10社と契約できているかどうかがひとつの入口になります(この目安は自社の支援実績をもとにした感覚値です)。

このフェーズで重視したいのは、リード獲得の量と質を両方追うことです。具体的には、MQL(マーケティング活動によって創出された見込み客)の数を最大化しつつ、そこから商談に転換する率も同時に高めていく、という2軸を週次で見ていくのがおすすめです。量だけを追うとリード数は増えても商談化しない、質だけにこだわると母数が小さくなって案件数が伸びない、というバランスの崩れが起きやすいので、週単位で両方の推移を確認しながら、広告のクリエイティブやターゲティング、フォームの項目などを細かく調整していく運用になります。

このフェーズはちょうど、THE MODEL型と呼ばれるマーケティング・インサイドセールス・フィールドセールスが分業する体制に移行していく時期でもあります。マーケティングだけでMQLの基準を決めてしまうと、量は追えていても現場の感覚とズレたリードが渡ってしまい、インサイドセールス側で「これは商談化しづらい」という状態になりがちです。そのため、どこからをMQLとみなすかをインサイドセールスと事前にすり合わせておき、量と質の両方を同じ定義のもとで追っていく形にしておきたいところです。

施策としては、リスティング広告・Meta広告・展示会・共催ウェビナーあたりを定常的に回していく体制を作りつつ、並行してSEOや事例コンテンツにも着手しておきたい時期です。広告は即効性がありますが、SEOや事例コンテンツは効果が出るまでに時間がかかる分、このフェーズのうちから種をまいておくと、次のフェーズに入るタイミングでちょうど効いてくることが多いです。実際に、月1回だったウェビナー開催を月4〜6回に増やし、広告のCPAを5分の1まで改善できた弊社の事例(パートナープロップ様の支援事例)もあります。

ヒト:マーケティング責任者を任命し3人体制へ

このフェーズで初めてマーケティング責任者を任命し、ひとりマーケの体制から3人ほどのチームに広げていくケースが多いです。広告運用・コンテンツ制作・インサイドセールスといった機能ごとに担当を分けられるかどうかが、このフェーズの後半で問われてきます。ひとりマーケの体制から外部パートナーと組んで組織の土台を整え、商談獲得単価を50%改善した弊社の事例(株式会社A様の支援事例)もあります。

モノ:チャネル別ダッシュボードを整備する

チャネル別に「リード数→MQL数→商談数→有効商談数→受注数」の流れを可視化するダッシュボードを整備しておきたいです。MQLの基準をインサイドセールスとすり合わせても、その数字がどのチャネルで、どの段階まで進んでいるかを関係者が同じ画面で見られる状態になっていなければ、量と質を両輪で追うと言っても議論が噛み合いにくくなります。MA(マーケティングオートメーション)ツールは、このフェーズで必須というわけではなく、必要になったタイミングで導入を検討すれば十分です。あわせて、事例コンテンツやホワイトペーパーといった資産も、この時期から少しずつ蓄積していくことになります。

カネ:予算規模に応じて施策を組み合わせる

月間の広告予算の規模によって打てる施策の組み合わせが変わってきます。予算が限られているうちは展示会や共催ウェビナーのような、比較的少額から始められて商談化しやすい施策を軸にしつつ、予算が積み増せるようになったタイミングでリスティングやMetaの出稿量を広げていく、という順序で考えるとムリがありません。

成長期(10→100):指名検索とエンタープライズ開拓を狙う

年間の広告予算(外注費含む)がおよそ3億円規模(自社の支援実績をもとにした目安です)に近づいてくると、これまでとは違う打ち手が必要になってきます。このあたりから、指名検索や比較検討時の想起を狙う「認知広告」に予算を割く会社が増えてきます。

拡大期では、顕在層(すでに課題を自覚して情報収集している層)を狙う施策が中心でしたが、このフェーズでは潜在層にもアプローチして、指名検索数そのものを伸ばしていく発想が必要になります。指名検索が増えるということは、それだけ市場の中で名前が想起されるようになっているということなので、この数字の推移を追いながら認知施策の効果を判断していくことになります。

ヒト:10名規模のマーケティング組織を目指す

マーケティング組織を5~10名程度まで広げていくことを目指せるフェーズです。基本的にはチャネルごとに担当者をアサインしていく考え方になりますが、何人配置するかはサービスの特性によって変わってきます。

モノ:クリエイティブを複数パターン継続的に作る

予算規模が大きくなる分、広告クリエイティブや動画といったアセットの制作量・パターン数も増えていきます。認知広告は接触回数が多くなる分、同じクリエイティブを流し続けると効果が落ちやすいので、複数パターンを継続的に作り替えていく体制が必要になってきます。

また、このフェーズでは認知広告に投じた予算をきちんと回収できるだけの単価の高いエンタープライズ開拓が重要になってきます。指名検索や認知が広がっても、そこから生まれる案件が小粒なままでは投資が見合わなくなるので、ビッグディールをどう狙うか、大手企業のロゴをどう獲得するかという視点が必要になってきます。あわせて、クローズドな勉強会やコミュニティ施策のような、エンプラ層との関係を丁寧に作っていく打ち手も効いてくる時期です。

カネ:投資対効果の説明責任が重くなる

投下規模が一気に大きくなる分、投資対効果の説明責任も重くなります。認知広告のような効果測定がしにくい施策にどれだけ予算を割くかは、経営判断としての側面が強くなってくるので、マーケティング部門だけでなく経営層を巻き込んだ意思決定の体制が必要になってきます。

関連記事:エンタープライズ開拓で失敗しないために。BtoBマーケティングのターゲティング戦略と3つの注意点

まとめ:フェーズごとに見るべき指標を変える

立ち上げ期では市場の有無を確かめること、拡大期ではMQL数と商談転換率を両輪で追うこと、成長期では指名検索数とエンタープライズ開拓に目を向けること。同じ「BtoBマーケティング」という言葉でも、フェーズによって見るべきものはこれだけ変わります。今の自社がどのフェーズにいるのかを一度整理した上で、施策の優先順位を見直してみると、これまで見えていなかった打ち手が見つかるかもしれません。

自社の状況に合わせてどこから着手すべきか整理したい場合は、お気軽にご相談ください

著者プロフィール(EEAT用パーツ)

WRITTEN BY

株式会社リードファクトリー 代表取締役 遠藤由規

代表取締役

一橋大学商学部を卒業後、ENEOS株式会社に新卒入社。その後、日本最大級の屋内型エンターテインメント施設 「アートアクアリウム美術館」の立ち上げに新規事業責任者として参画。2021年よりベンチャー支援のSOICO株式会社にて マーケティング・インサイドセールス責任者を務め、PHC株式会社ではAPACの海外BtoBマーケティング立ち上げに従事。 2023年5月、株式会社LEAD FACTORY.を創業。BtoBマーケティング・インサイドセールスの実務知見をもとに、 スタートアップから大企業まで幅広い規模の事業成長を支援している。

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