製造業のマーケティングとは?戦略の立て方と施策の選び方を解説

製造業のマーケティングとは?戦略の立て方と施策の選び方を解説

製造業のマーケティングとは、自社の技術や製品を、買い手が「この会社に頼む理由」として理解できる形にし、問い合わせや商談につなげる活動です。展示会やイプロスのようなポータルサイト、カタログ、代理店との連携も含みます。

施策を選ぶ前に、事業の方向性・商流・ターゲット社数・顧客の知識量の4つで戦略を決めます。そうするとやるべきことが絞れます。ターゲットが100社以下なら、Webより1社ずつ攻め方を決めるABMが向いています。

戦略の立て方から施策の選び方、見込み客を商談にする流れ、効果の測り方まで順に説明します。

製造業のマーケティングとは、技術を「選ばれる理由」に変えて商談を生む活動

製造業のマーケティングとは、自社の技術や製品を、買い手が「この会社に頼む理由」として理解できる形にし、問い合わせや商談につなげる活動のことです。Webサイトや広告だけでなく、展示会、イプロスのような製造業向けのポータルサイト、会社案内やカタログ、代理店との連携も含みます。

製造業は、日本の産業の中で大きな位置を占めています。令和3年経済センサス‐活動調査によると、2020年の製造業の売上高は387兆円で全産業の22.9%、純付加価値額は65兆円で全産業の19.3%です。売上高は卸売業・小売業に次ぐ2位、純付加価値額は医療・福祉に次ぐ2位でした。

それでも、製造業のマーケティングは他の業界より遅れていると言われてきました。理由の一つは、製品の専門性が高く、外部のマーケティング会社が商材を理解するまでに時間がかかることです。もう一つは、中小の製造業には専任のマーケティング担当者がいないことが多く、営業やカタログ制作の担当者が兼任していることです。現場の改善では世界でもトップクラスの会社が、売り方の改善には手が回っていない。そうした状況をよく見かけます。

裏を返すと、他の業界では当たり前の施策でも、製造業ではまだ競合が手を付けていないことが多くあります。早く始めた会社ほど差をつけやすい分野です。

製造業のマーケティングが難しいのは、商材・買い手・売り方が他の業界と違うから

製造業でマーケティングを始めると、次の3つでつまずくことが多くあります。

商材が専門的で、強みを言葉にしにくい

製品が専門的なため、買い手が限られます。とくに部品や素材のサプライヤーは、自社の強みを言葉にしにくいという問題を抱えています。

たとえば、ねじを作っている会社であれば、ねじの原理や緩まない締め方、締結部の設計方法といった技術情報を発信し、それを調べに来た設計者に自社を知ってもらう、という順番が効果的です。製品そのものより、製品を使う人の悩みを入口にします。

買い手が多く、購買までの期間が長い

購買までの期間が長く、設計・購買・品質保証・工場長など、立場の違う人が何人も関わります。それぞれが気にすることも違うため、一つの資料や一度の説明では話がまとまりません。

売った後も関係は続きます。製品の寿命が長く、10年以上前のモデルを使い続けている顧客も珍しくありません。修理やメンテナンスの案内、生産終了(EOL)になった製品の後継機種の情報など、売った後の情報提供もマーケティングの仕事になります。

代理店経由で売っていると、買い手が見えない

代理店や商社を通して売っている完成品メーカーでは、エンドユーザーとの接点がないことがあります。どこで何がどれだけ売れているか分からないと、マーケティングに予算をかけても、売上への効果を測れません。

このため、製造業のマーケティングは、見込み客を集めるだけでは足りません。見込み客を育て、信頼関係を作り、長く取引をして、顧客生涯価値(LTV)を高めるところまでを考えます。難しさの理由は「製造業のWebマーケティングは他の業界と比べて難しい3つの理由」でも詳しく解説しています。

戦略は「事業の方向性・商流・ターゲット社数・顧客の知識量」の4つで決める

製造業といっても、町工場からグローバル企業まで幅があり、同じ施策が全員に効くことはありません。リードファクトリーでは、次の4つを確かめてから施策を決めています。

1. 事業として目指す方向性

経済産業省は、中小企業・小規模事業者に期待される役割を4つの型に分けています。

  • グローバル展開をする企業(グローバル型)
  • サプライチェーンで中核の位置を占める企業(サプライチェーン型)
  • 地域の資源を生かし、地域の外でも活動する企業(地域資源型)
  • 地域の生活やコミュニティを支える企業(生活インフラ関連型)

自社が今どの型にいて、どこを目指すのかで、Webの使い方が変わります。Webの強みは、日本全国や海外の見込み客と接点を持てることです。地域の生活を支える会社が地域の外からの受注を増やしたいなら、Webで域外の見込み客を集めます。サプライチェーン型の会社が海外に販路を広げたいなら、海外向けのWebマーケティングを立ち上げます。4つの型については「中小製造業の現状と課題」でも解説しています。

2. サプライヤーか、完成品メーカーか

サプライヤー(部品や素材を他社に納める会社)は、自社の製品がどんな用途で使われているかを、使う側の目線で書き出すところから始めます。すると、似た使い方をしている業界や、まだ取引のない顧客の姿が見えてきます。そこに向けて、技術情報の記事やリスティング広告で接点を作ります。

完成品メーカーは、まずエンドユーザーの情報を持っているかを確かめます。特約店や代理店経由の販売が中心で、エンドユーザーとの接点がない場合は、Webマーケティングより先に代理店との連携を見直したほうが、売上に直結することがあります。マーケティングと営業が組んで進める必要があり、難しい分、効果も大きい取り組みです。

3. ターゲットは何社あるか

ターゲットの社数は、どの施策の費用対効果が高いかを見積もる目安になります。ここは『BtoBマーケティングの定石』(垣内勇威著)の考え方が参考になります。

ターゲットが100社以下なら、Webマーケティングとの相性はあまりよくありません。Webは全国から見込み客を集められる反面、来る相手を選べないからです。1社ずつ書き出し、個別に攻め方を決めるほうが効率的です。この進め方をABM(アカウントベースドマーケティング)と呼びます。

ターゲットが100社を超えるなら、既存顧客のリストがどれだけあるかで方針が分かれます。費用をかけて新規顧客を獲得するか、既存顧客への追加提案(クロスセル・アップセル)で売上を伸ばすか、どちらに重点を置くかを決めます。一度売ったら次の購入まで何年も空く商材なら、新規顧客を取り続けないと事業が続かないため、リスティング広告や展示会などの新規獲得に予算を寄せることになります。

4. 顧客がどれだけ知っているか

最後に、ターゲットが自社の製品分野についてどれだけ知っているかを見ます。

受託加工のように、自社のほうが技術に詳しく、顧客が「どの素材を選べばいいか」から迷っている場合は、相談相手の立場を取るのが向いています。Webですべてを説明しようとせず、資料のダウンロードなどで連絡先を残してもらい、インサイドセールスが悩みを聞いて商談につなぐ流れが効率的です。

反対に、生産技術のエンジニアのように欲しい仕様がはっきりしている顧客は、仕様に合う部品を自分で探します。問い合わせも「〇〇の後継品を探しています」のように具体的です。この場合は、技術情報をWebサイトに漏れなく載せ、「〇〇ならこの会社」と思い出してもらえる位置を取りにいきます。

決めた戦略を、顧客像と「なぜ自社なのか」に落とす

4つが決まったら、対象とする顧客のグループを、業種・規模・地域・購買の進め方で絞り込みます。次に、その中の具体的な担当者像(ペルソナ)を、役職・目標・困りごと・情報の集め方まで書き出します。最後に、その人の困りごとと自社の強みを突き合わせ、なぜ他社ではなく自社なのかを一文で言えるようにします。この一文をバリュープロポジションと呼びます。

この一文が、展示会のキャッチコピーにも、カタログの表紙にも、Webサイトのトップにも使われる、マーケティング全体の芯になります。 ペルソナの作り方は「BtoBマーケでのペルソナ作成手順」、購買までの流れの描き方は「BtoBマーケティングのカスタマージャーニー」で解説しています。

施策は「集める・育てる・商談にする」のどこに効くかで選ぶ

製造業でよく使われる施策を、役割ごとに並べました。全部を一度にやる必要はありません。戦略で決めたターゲットと、今いちばん詰まっている段階に合わせて選びます。

施策

主な役割

向いている会社

展示会

集める・商談にする

製品の実物を見せたい会社、ターゲットが特定の業界に集まっている会社

製造業向けポータルサイト(イプロスなど)

集める

自社サイトへの流入がまだ少ない会社

SEO・コンテンツマーケティング

集める・育てる

技術情報を続けて発信できる会社

ホワイトペーパー・技術資料

集める・育てる

顧客より自社のほうが技術に詳しい会社

リスティング広告

集める

探している製品や加工がはっきりした顧客を狙う会社

メールマーケティング

育てる

名刺や問い合わせのリストがたまっている会社

会社案内・カタログ・営業資料

商談にする

営業や代理店の説明がばらついている会社

SNS

集める・育てる

採用や企業の認知も一緒に高めたい会社

展示会:今も製造業の中心。成果は展示会の後で決まる

製造業では、展示会は今も見込み客と出会う中心の場です。製品の実物や加工サンプルを見せられ、その場で技術的な質問に答えられるからです。

一方で、名刺は集まったのに商談につながらない、という悩みもよく聞きます。差がつくのは、出展前の準備と、展示会の後のフォローです。フォローの流れは次の章で説明します。出展のメリットや費用は「BtoBマーケティングの展示会」で解説しています。

製造業向けポータルサイト:自社サイトの集客が育つまでの入口

イプロスのような製造業向けのポータルサイトには、製品や技術を探している設計者・購買担当者が集まっています。自社サイトへの流入がまだ少ない段階でも、掲載すれば見込み客の目に触れます。料金や向いている会社は「イプロスの効果や料金体系」で解説しています。

SEO・コンテンツマーケティング:技術の調べものに答え、見つけてもらう

設計者や生産技術の担当者は、困ったときにまず検索します。加工方法や素材の選び方、トラブルの原因など、顧客が調べる技術的な疑問に答える記事を自社サイトに置けば、検索から見込み客が来るようになります。成果が出るまで時間はかかりますが、記事は資産として残ります。進め方は「製造業のコンテンツマーケティング」と「製造業のSEO対策」で解説しています。

ホワイトペーパー・技術資料:連絡先と引き換えに、深い情報を渡す

技術資料や選定ガイドをダウンロードできるようにすると、関心のある見込み客の連絡先が手に入ります。顧客より自社のほうが技術に詳しい会社ほど効果が出やすい施策です。作り方は「製造業のホワイトペーパー活用方法」で解説しています。

リスティング広告:探しているものがはっきりした顧客を、すぐに集める

「〇〇 加工」「〇〇 メーカー」のように、探している製品や加工がはっきりした検索に広告を出すと、すぐに見込み客を集められます。SEOの成果が出るまでのつなぎにも使えます。詳しくは「製造業のリスティング広告」で解説しています。

メールマーケティング:たまった名刺を、商談の候補に変える

展示会や問い合わせで集めた名刺は、そのままにしておくと他社に流れます。定期的にメールで技術情報や事例を届けると、検討が進んだときに思い出してもらえます。「製造業のメールマーケティング」で解説しています。

会社案内・カタログ・営業資料:営業と代理店の説明をそろえる

会社案内やカタログは、展示会で配り、営業が商談で使い、代理店が顧客に説明するときにも使います。前の章で決めた「なぜ自社なのか」が資料に入っていないと、営業担当者や代理店ごとに説明がばらつきます。製造業では、Webより先に資料を見直したほうが、効果が早く出ることもあります。

SNS:採用と企業の認知を一緒に高める

製造業のSNSは、製品の売り込みより、工場の様子や技術者の仕事を見せる発信が向いています。採用にも効くため、営業と採用の両方で使えます。「製造業のSNSマーケティング」で解説しています。

どの施策も、最後は自社のWebサイトで問い合わせや資料請求を受けることになります。受け皿になるWebサイトの作り方は「製造業向けのホームページデザイン」を参考にしてください。

集めた見込み客は、育てて営業に渡すところまで設計する

製造業のマーケティングでいちばん取りこぼしが多いのは、見込み客を集めた後です。展示会で数百枚の名刺を集めても、すぐに商談になるのは一部です。残りの「今すぐではない」見込み客をどう扱うかで、半年後、1年後の商談の数が変わります。

流れは3つの段階で考えます。

  1. 集める(リード獲得):展示会、ポータルサイト、Webサイトからの資料ダウンロードなどで、見込み客の連絡先を手に入れます。自社から接触するアウトバウンド(電話・メール・DM)と、見込み客から来てもらうインバウンド(記事・資料・広告)があります。
  2. 育てる(リードナーチャリング):見込み客の関心や検討の段階に合わせて、メールや資料、セミナーで情報を届けます。MAツールを使うと、どの見込み客がどの資料を読んだかが分かり、関心の高さを点数で表せます。
  3. 商談にする:関心が高まった見込み客に、インサイドセールスが電話やメールで状況を聞き、具体的な検討があれば営業に渡します。マーケティングが育てた見込み客をMQL、営業が商談として受け取った見込み客をSQLと呼び分けると、どこで詰まっているかが分かります。

展示会の名刺であれば、展示会の翌週までにお礼のメールを送り、ブースで話した内容に合わせた資料を案内し、反応のあった人にインサイドセールスが電話をする。この流れを、出展前に決めておきます。

それぞれの進め方は、「リードナーチャリングとは」「インサイドセールスとは」「MQLとは」で解説しています。

効果は「売上につながったか」まで測る

成果が出るまでに時間がかかる分、途中の数字で手応えを確かめる必要があります。ただし、ページビューや名刺の枚数だけを見ていると、頑張っているのに売上が増えない状態に気づけません。

指標は、次の3つの層に分けて持つと整理しやすくなります。

層

見るもの

指標の例

活動の量

何をどれだけやったか

記事の本数、展示会の出展回数、メールの配信数

顧客の反応

見込み客がどれだけ動いたか

Webサイトの訪問者数、リード数、資料のダウンロード数、MQL数

事業への効果

売上にどれだけつながったか

商談数、受注数、受注金額、顧客獲得単価(CAC)、LTV

最初に事業への効果の目標(たとえば、年間の新規受注金額)を決め、そこから逆算して、必要な商談数、MQL数、リード数を出します。こうしておくと、どの段階が足りないかが数字で分かり、次に打つ手が決まります。

数字を集めるには、顧客情報と商談の進み具合を管理するCRM・SFA、見込み客の行動を追うMAツール、Webサイトのアクセス解析ツールを使います。MAツールの選び方は「BtoBにおすすめのMAツール」で解説しています。

経営層や営業部門に成果を伝えるときも、この3つの層で示すと話がかみ合います。リードファクトリーでは、目標と指標を経営・営業・マーケティングで共有し、続けて改善できる状態を「マーケティングガバナンス」と呼んでいます。これがないと施策ごとの部分最適に陥り、何が売上に効いているのか分からなくなります。

自社で進めるか、外部に頼むかは「人・知識・期限」で決める

外部の支援を頼むかどうかは、次の3つで判断します。

  • 担当者が営業やカタログ制作と兼任で、マーケティングに使える時間がほとんどない
  • 社内に、Web広告やMAツールを運用した経験のある人がいない
  • 展示会や新製品の発売など、成果を出したい期限が決まっている

当てはまるものが多いほど、外部の力を借りたほうが早く進みます。商材を理解するまでに時間がかかる業界なので、支援会社を選ぶときは、製造業を支援した経験があるか、戦略から施策の実行、効果測定まで通して見てくれるかを確かめてください。施策の代行だけを頼むと、この記事で説明した「集めた後」が抜け落ちがちです。

まとめ:戦略で施策を絞り、集めた後まで設計する

製造業のマーケティングは、商材が専門的で、買い手が多く、購買までの期間が長いため、他の業界より難しいと言われます。その分、始めた会社が差をつけやすい分野でもあります。

進め方は3つにまとめられます。まず、事業の方向性・商流・ターゲット社数・顧客の知識量から戦略を決め、「なぜ自社なのか」を一文にします。次に、展示会、ポータルサイト、Web、資料の中から、今いちばん詰まっている段階に効く施策を選びます。最後に、集めた見込み客を育てて営業に渡すまでの流れと、売上までの指標を決めます。

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WRITTEN BY

株式会社リードファクトリー 代表取締役 遠藤由規

代表取締役

一橋大学商学部を卒業後、ENEOS株式会社に新卒入社。その後、日本最大級の屋内型エンターテインメント施設 「アートアクアリウム美術館」の立ち上げに新規事業責任者として参画。2021年よりベンチャー支援のSOICO株式会社にて マーケティング・インサイドセールス責任者を務め、PHC株式会社ではAPACの海外BtoBマーケティング立ち上げに従事。 2023年5月、株式会社LEAD FACTORY.を創業。BtoBマーケティング・インサイドセールスの実務知見をもとに、 スタートアップから大企業まで幅広い規模の事業成長を支援している。

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